世界が今夜終わるなら

肺に疾患がある。慢性閉塞性肺疾患というもので、一般的にはCOPDといわれるもの。慢性的に咳が出たり、痰が絡んだり、呼吸が苦しくなったりして、日常にたいへん支障をきたすやっかいなもの。タバコを吸う人に多い。気管支や肺胞に異常がでて、酸素の交換がうまくいかなかったりして、血液中の酸素濃度が低くなる。体内の酸素濃度が低いということは、より酸素を体内に送るべく、心臓は余分にはたらく。心拍はあがるけど、酸素濃度は低いままで、かつ呼吸機能も十分じゃないので、同世代と同等の運動量にはついてはいけないほど、疲れやすい。疲れやすいし、呼吸器に異常があるので、感染リスクも高く、風邪はひきやすいし、呼吸不全に陥りやすい。高齢者が、咳き込みによる肺炎を繰り返し、最終的には呼吸不全でなくなるケースも少なくない。ぼくはそういう体で生きている。

ところでぼくはタバコは吸わない。COPD(肺に疾患)があるから吸わないし、そもそも肺がんのリスクをたかめる嗜好品を買うほど立派な暮らしもしていない。でもぼくの肺は大変やっかいな感じになってる。

理由は、2歳ごろに小児がん白血病の治療として、抗がん剤治療、放射線治療、骨髄移植をしたことにある。抗がん剤治療と放射線治療を併用した治療をすることで、副作用としてCOPDを発症するリスクが高まる。そうでなくても、呼吸機能の低下は免れ得ない。ぼくの場合は、歯の弱さや低身長やなんかも、その影響を大きく受けている。

どんな季節でも、咳が出るし、痰はからむ。お出かけをしても、友達といても、何をしてても疲れやすい。友達と居ても、咳は出るし痰はからむ。口の中に出た痰はすぐにでもティッシュに出したい。でも、口の中で留めて、飲み込む。辛いが、仕方ない。友達が笑っているなかで「ガッゴゴゴっ、カッカっ、んん〜っぺっ!!」なんてやってしまえば、もう笑えないでしょ。友達と遊びたい、仲間と寄り合って企画の打ち合わせをするらしい、断るのも癪だ、そうやって行ってみるものの、咳は出て痰はからみ、その様子に心配の空気が生まれる。そうやって、次は行くのやめようかな、と、思ったりもする。

そして今日。2、3週間ずっと続く咳込みの影響で、右の脇腹にひどく鋭い痛みを感じるため、病院へ。何もしてなくても痛むし、咳をすれば作業を止めて悶えるくらいの痛みで辛い。

ぼくは病院嫌い。たくさんの治療をしてもらったし、たくさんの薬ものませてくれた。そして、命を救ってくれた。救われた命を経過観察すべく、何度も何度も何年も通院した。何年も経って、東洋の医学があることを知ったり、対症療法ではなく自己治癒力を高めるという選択肢に気付いたり、いろんなことを考えるようになって、足が遠のくようになった。世話になりすぎてアレルギーのようになっていて、病院へ行くことや薬を飲むことに毛嫌いするようになっていった。

周囲からも勧められ、ぼくも危険を感じて、病院へ行くことにした。ところが、レントゲンも採血も聴診もコロナ検査もすべて、異常なしという結果だった。よくある、咳止めと痰切りの薬を5日分処方されて、終わった。でも、ぼくの痛みは変わらないどころか、よりひどく、ぼくの暮らしを脅かす。

昔から病院へ行くと、ちょっと体調が良くなった。どういうわけか、元気になった。今日も待合室にいるとちょっと体調が落ち着いたもんだから、たぶん実際のところが伝わらなかったのかなと思ってる。間違いない。でなけりゃ今、痛み止めももたず、背中合わせで眠るパートナーを起こさないように脇腹の痛みに悶えながら咳き込むなんてことにはなってないはずだ。

大変に、まいったことです。辛いですもの。

動けないこと。仕込みを思うように手伝えないこと。友達を大切にしきれないこと。優しくあれないこと。何もできない気がしてくること。

咳がつらくて、痰が絡んで息ができなくて、立ち止まったり座り込んだりして、皿洗いのために出した水の音を聴きながら、体が動かせず水を止めるボタンを押すことさえままならない状況に、台所で涙が出てきた。めがねがぬれて、でもくるしくて拭うこともできなくて、どんどんたまる涙に目が痛くなってきて、、、。

生きてるだけで丸儲け。そうは言っても、生きてる痛み、周囲との関係、成長してる感のなさ、貢献できてない感、こういうことに直面すると、生きてていいんかな?とさえ思う。